HATE HONEY解散から5年。
その間、数多くの形態で音楽を表現してきた高木フトシ。
今回はそれぞれの活動についてを、今後の展望も含めて語ってもらった。
interviewer:AKIRA
●HATE HONEY解散からすでに5年という時間が経ちましたが、それは意識の中にありますか?
意識的にはまったくなかったね。言われて「そうかぁ」って思った。
●その5年の間、ソロだけでなく本当にたくさんの形で音楽を鳴らしていますよね。
たくさんね(笑)。なんでこんなことになっているのか、自分でもよくわからないけど(笑)。
AKUHについて
●節目ということで、それぞれの活動をおさらいしていきたいと思います。まずAKUHについてですが、そもそもはソロ活動を始めたばかりのフトシさんのライブに、時折YANAさんが加わるという形でしたよね?
そう、YANAちんが俺の弾き語りにドラムで入るっていうだけのものだったの。でもしばらくしてからYANAちんが「メンバーとしてやりたいなぁ」みたいなことを言ってくれたんだよね。それにお互いにメインのバンドが解散したばっかりだったし、仲良いからさ。でも、「これから頑張っていこう!」というのはなかった。ただ一緒にメンバーとしてやりますかってだけだね。
●AKUHのライブや音源は単にギターとドラムというだけでなく、音がかなりハードな印象があります。
そうだね。実は「clearwater/darkness」を作ったときに、AKUHの在るべき場所というか、音も含めての落としどころみたいなものが俺の中で見えたんだよね。「この曲はAKUHだな」というのもわかったし、意図的にハードなものを作っているという意識はあるよ。もちろんバンドのハードとはまた別の、ちゃんと日本語を基本としたハードな音っていう方向がAKUHはいいのかなって。
●普段はすごく仲の良いおふたりですが、ライブからはストイックな空気を感じます。
ああ、それは今すごく意識してる。「Red counter」を作った段階で、どうしてもストイックになってしまうんだよね。あのシングルはチェルノブイリの写真集を観たときに、これを基にして音源を作りたいと思って形にしたものだからさ。その際にけっこういろいろ勉強したし。
●原発のことをですか?
それもあるけど、あと2009年9月11日に新宿LOFT PLUS ONEでのイベントで田中優さん(脱原発やリサイクルの運動を出発点にさまざまなNGO活動をされている文筆家)と出会ってから、彼のことをいろいろ勉強したりしているうちに、俺もいろいろ考えたり、知らないとダメだなって思ったんだよね。そういう意識があるから、今はよりストイックになっている気がする。でも「Red Counter」を作ったのって結構前じゃない?
●昨年の9月あたりですよね。
そのときは誰もピンときてないわけよ。「チェルノブイリ? 原発?」ってさ。そんなことよりみんなはメロディを求めるからさ。テーマや詞がどうのこうのよりも、みんなはそれが良い曲かそうでないかってことだけに集中しちゃうわけじゃん。もちろんそれが普通だし、それが俺のすべきことだから良いんだけど。ただ、今になってやたらとあの曲に対するメールとかが来るんだよね。
●3月11日に東北地方太平洋沖地震が起きたばかりですからね。原発の問題も起きていますし。
でもそれは俺の本意じゃないのよ。だからそれは反省した。やっぱりちゃんと説明して、ちゃんと伝えることをしなきゃいけないって。
●もっとストレートなメッセージが必要だということですか?
テーマを持って何かをやるのであれば、どうすれば伝わるのかということも考えないといけないなって思う。それは今回の地震の件で気がついたね。ただAKUHはスロー・ペースだけど、いつか化けるような気がするんだよね。俺とYANAちんのふたりでさらに到達できる場所があると思う。そのためには俺がもっと煩悩を消して、伝えることをちゃんとやっていけば、AKUHは昇華するような気がする。
BAD SiX BABiESについて
●ではBAD SiX BABiES(以下B6B)についてですが、昨年5月の大阪でのライブから正式にあのバンド名でライブを行なってますよね。個人的にはすごくビックリしました。いきなりの復活でしたよね。
それはね、俺自身もビックリしてる(笑)。今でもガッツリとやっていくという感覚ではないし。戸城(憲夫)さんも多分そうだと思うんだけど……実際の活動内容としてはけっこうキビしいね(笑)。
●ライブのみならず、本当に久しぶりの音源「LAST DAY’S」もリリースされましたよね。
そもそも音源を出せなかったっていうのが、俺が当時B6Bを辞めた理由のひとつだったからさ。だからそれを実現できたのはすごくうれしいよ。もちろんまだ音源になってない曲もたくさんあるけど、少なからず音源を出せて、東名阪ツアーも回れて、しかもBALZACと一緒にやれるなんてさ。人生こんなこともあるんだなって思ったよ。
●レコーディングは地震の数日後に行なわれたんですよね。
そう、だから俺はレコーディングなんてできないと思ってたの。そしたら戸城さんから「ほぼ一発録りでいきます」って連絡が入ってさ。俺もあがって「一発あれば十分です!」って返事した。で、スタジオ入ったらみんな気合入っててさ。
●地震の直後にあの音源を録音したということは、すごくかっこいいことだと思います。
うん、それにギリギリ感みたいなものもパッケージされてると思う。余震もすごい中、俺たちスタジオに籠ってたわけだから。世の中が大騒ぎしている中、俺たちは音を作ってる。しかも悪いロックンロールをさ。だからその空気は確実にパッケージできたね。でね、そこですげえなと思ったのが、戸城さんと大山(正篤)さんだね。俺らとかはレコーディングではある程度Pro Tools(録音・編集用のソフトウェア)を使うじゃない。
●もはやPro Toolsを導入していないレコーディング・スタジオはほとんどありませんよね。
ところが戸城さんとか大山さんってアナログの世代だからさ、やり直すときは全部やり直すことをやってきた人たちなのよ。だから一発の責任や重要さは俺らなんかよりよっぽど知ってるわけだから、そこに向かうときの演奏力や集中力っていうのは俺らとは比較にならないの。それは痛感した。石井(ヒトシ)さんは別だけど(笑)。そのあたりは80年代の人たちはすごいね、やっぱり。
●あの音源には新曲も収録されていますよね。タイトル曲の「LAST DAY’S」にはどういった思いがあるのでしょう?
詞に関してしか言えないけど、その名のとおり、今日が常に最期だと思うことが大事だってことだね。ただそのためにはもっと自分を知らないとダメなのよ。もっと自分を知って、今日が最期だと思いながら生きることこそ、なんだかロックンロールの生き様のような気がするんだよ。
●サビの「looking the mirror」には己を知れという意味があるんですね。
まさにそう。でも詞を書いたあとに地震が起きちゃったら、すごくタイムリーなメッセージみたいになっちゃって。そういう意味じゃないんだけどね。
●では「1 BED ALIVE」は?
あれは戸城さんが喜べばいいなと思って書いたんだよ。単純にギャンブルの歌だからさ。でもギャンブルは悪いところばかりだけど、良いところも少しはあると思うから、それを書いた。俺自身も歌っててあがるし。だってそもそもB6Bの正式名称は“CUSTOM HIGH ROLLER BAD SiX BABiES GAMBLE”だからさ。俺たちにとってはこのバンド自体がギャンブルなわけよ。しかもCUSTOM HIGH ROLLERってハイ・リスク・ハイ・リターンのさらに上のことだからね。
●HIGH ROLLERには大博打という意味がありますからね。
しかもCUSTOMがつくからね(笑)。大博打の中の大博打。でもそんな歌を1曲書きたかったんだよね。それこそ「カイジ」じゃないけど、ワンベットに命を賭けられるかって歌をさ。実際にできるかって言われたら、俺は賭けられないけど(笑)。
●昔の曲もレコーディングしていますが、ライブも含めて、それこそ10年ほど前の詩や曲たち、つまり自分と向かい合わなければいけないわけですが、そこにはかなり苦労があると思います。
あぁ(苦笑)。苦労なんてもんじゃないよ。例えば「腐ったガソリン」の危険度たるやハンパじゃないわけよ。我ながらよくこんなこと歌ってたなって思う。HATE HONEYで言えば「sick by sleep」とか「diary」とかもそうだったけど。「腐ったガソリン」にはさ、たかだか腐ったガソリンのために戦争なんて起こしやがってという思いがあるわけよ。そういう怒りを詞にしてるわけだから、かっこいいんだろうけど危ない奴だとも思う。でも、言ってかっこつけるしかないのがロックンロールだからさ。俺はカート・コバーンみたいに自殺もできないし、ジャンキーでもない。だとしたら、堂々と言うしかない。そしてその感覚をみんなと共有できればいいのかなって。それがロックの在り方だと思う。それでみんなが盛り上がればいいわけだし。
●今後のB6Bにはなにか展望はあるのでしょうか?
俺にはわからないなぁ。でも、毎月ライブ入ってるんだよね(苦笑)。今どき毎月ライブやっているバンドって、けっこうマジだよ(笑)。だから戸城さんはマジなんだと思う。でも、このままならたぶん俺はどこかしらで断ると思う(笑)。
●このペースは無理だと(笑)。でもとてもお気楽な感じには思えないペースですよね。
うん(苦笑)。いやいや、やれるとこまでやりますよ、もちろん。ちなみに俺と俺のスタッフはB6Bのことは代表招集って呼んでるよ。
●なるほど(笑)。招集がかかれば代表チームとしてプレイすると。
そう。ふだんはクラブ・チームにいる俺が、毎月のように代表招集されるんだよね。だからスタッフからは「怪我だけは気をつけて帰ってきてね」って言われる(笑)。まあ、そういうバンドだよ、B6Bは。でもたけちゃん(坂下たけとも)が加入して、若干テンションはあがったよね。年齢も一緒だしさ。だから楽しくやってるよ。代表招集だから、日の丸背負ってロックンロールを歌っていくよ(笑)。
gonvutについて
●gonvutの活動も楽しそうですよね。特に3月14日の新宿LOFTのライブはUSTREAMで観ましたが良いライブでしたよね。
あれはすばらしいライブだったね。震災の2日後に(ゴンダ)タケシが「がんばれ!」とか言ってるのに、俺は「がんばれとか言っちゃって」とか突っ込んだりして(笑)。
●東京タワーが傾いてる話とかしてましたよね(笑)。でもあのMCも含めてあの日のライブは正解だと思います。
正解だろ? そうなんだよ。
●でもあれがgonvutのナチュラルさを際立たせていたと思います。ゴンダさんと対照的な姿勢だったからこそあの雰囲気は生まれていると思いますし。
そうそう。タケシは「東北がんばれ!」みたいになってるからね。「お前ががんばれよ!」って話なのに(笑)。タケシが正解なんだけどね。(笑)
●でも地震直後はフトシさんのような考え方って伝わらなかったですよね。
そう、誰にも伝わらなくて、俺ばっかり怒られて。「なんで俺ばっか…」って思う(笑)。でもgonvutはある意味あのときの暗い空気とかを忘れさせるものがあるんだよ。それは正解だったなと思う。さらにgonvutの良いところは、無責任でも無責任じゃなくてもいいんだよね。ちゃんと責任を持てることしか歌ってないからさ。それはすごく良い音楽を作れているなと思う。これはきっとみんなに伝わってるとライブをやりながら思うよ。特にあの日はみんなの緊張してる心をほぐすことができるというのは、自分でも確信できた。
●活動としては決して活発なものではないですよね。
gonvutはあんまりちゃんとしたスケジュールとか、未来のビジョンを持って動かすものじゃないなと俺は思ってる。極端に言えば、gonvutはあってもなくてもいいんだよね。単純にタケシと笑って楽しくやれる時間を狙ってやってるだけだから。
●大きな目標や予定がないからこそ、あれほど自由でピースフルな空気が生まれているんだと思います。
そうだね。だからこれといって言うことはないね(笑)。楽しいからやってるだけだよ。